ジェイン・エア(上・下)   

C・ブロンテ(著)、 小尾 芙佐(訳)  光文社古典新訳文庫  1969/1/1・1970/2

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19世紀中程に、自立し男性とも対等に生きようとした女性 , 2018/1/8

あらすじ
 父母を失ったジェイン・エアは、ミセス・リードに引き取られるが、そのゲイツ(ロード・)ヘッドでは親子からいじめられる。10歳のジェインは、寄宿学校ローウッド養育院に送りこまれる。そこの管理者ブロックルハーストは、独裁的で子ども達の生活環境も劣悪でチフスが発生し何人もが死亡する。友人ヘレンは結核で死亡。その後、世間の非難により衛生環境と管理体制は改善され、彼女は、そこで生徒として6年間、引き続く2年間を教師として過ごした。
 その後、ジェインはソーンフィールドの館(ソーンフィールド・ホール)で家庭教師となる。主人のロチェスターは彼女の20歳年上。やがて、二人の間に恋心がうまれ結婚を申し込まれる。しかし、結婚当日になって彼に妻がいて、館に匿われている狂人がその妻だと分かる。ジェインは驚き悩み、ソーンフィールドから人知れず去って行った。
 荒野を3日間さまよったあげく、行き倒れ寸前に牧師セント・ジョンに救われる。そこ(ムーア・ハウス)に滞在する内にその兄妹たちがジェインのいとこであることが明らかになる。やがて、セント・ジョンは、ジェインに妻としてインドに一緒に行って欲しいと頼むが、ジェインは彼に愛する心がないことを理由に断る。ジョン叔父が亡くなり、ジェインに2万ポンドの遺産を残したことが知らされる。彼女は、それをいとこたちと等分することとした。
 ジェインは、どこからともなく彼女を呼ぶ声に促されロチェスターを探しにムーア・ハウスを去った。ソーンフィールド近くの宿で、ソーンフィールド・ホールがロチェスターの妻による放火で焼け落ち、妻は亡くなり、ロチェスター自身も盲目になり片腕を失ったと聞く。ジェインはロチェスターのもとを訪ね経緯を話し、変わらぬ愛を確かめ二人は結婚にいたる。

レビュー
 19世紀中程に、ジェインほどに自立し、殊に男性とも対等に生きようとした女性が描き出されたことは驚きである。その有様は、結婚を迫るロチェスター、後にはセント・ジョンとのやりとりに鮮明に現れるのだが、前者では、狂人であっても妻のいる身で結婚を迫る倫理観に対する不同意であり、後者では、インドでの宣教師の仕事の助けを求めるのだが、結婚の前提たるべき相互の愛を見いだせないところへの非妥協の姿勢である。その自立心は、彼女のよく回転する明晰な頭脳と負けず嫌いな性格によるのではないかと思われ、それはとりもなおさずC・ブロンテの性格だったのかも知れない。
 わが国の近代文学に「ジェイン・エア」の生まれる素地はなかったと、辻邦生と水村美苗の往復書簡集(「手紙、栞を添えて」)で論じているが、わが国で女性の自立が描かれはじめたのは宮本百合子「伸子」(1924)あたりからであろうか。辻には、それを含む「樹の声海の声」(1983)がある。
 この小説を読むと、C・ブロンテの語りのうまさに引き込まれてしまう。語りのうまさとは、翻訳にもよるところも大きいのかも知れないが、すじがきも一直線で複雑な構造がなく、過去にさかのぼったり異なる話が紛れ込んだりすることがないところによるのであろう。分かりやすいのである。その時代のイギリスの歴史背景や文化的事象が描かれていてもそれらは短く触れられているだけで、それを知らなくとも筋を追うことにほとんど支障が無い。こうした小説は、今の感覚からすると大衆小説に分類されるのかも知れない。しかし、物語の展開やジェインの言動を楽しみながらほとんど現代的ともいえる主題を楽しむことができれば、大衆小説でも純文学でもまったくかまわないのではないかと思われる。

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