「満州国」見聞記―リットン調査団同行記  
 ハインリッヒ・シュネー(著) 金森誠也(訳) 講談社学術文庫
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リットン報告の内容とその背景+東西比較文化論
, 20056/4/22

柳条湖の列車爆破、それきっかけに始まった満洲事変、そして、リットン調査団・・・という歴史、それらを学校で習う時季は、すでに3学期の終わりも近づく頃、ということも与って、多くの日本人はあまり詳しく知ることもなく終わる。

この本では、リットン報告書の内容そのものについては、最後の章で4頁をさいてその要約が紹介されているだけである。大半は、英仏独伊米の5カ国の識者からなる調査団が見聞したことどもを、ドイツの国会議員である団員シュネーの目でまとめた見聞記・ドキュメンタリーである。溥儀の生い立ちや荒木陸相の人柄、各国要人との会見の様子などは勿論、京都の舞妓やハルビンの盗賊、農林業の姿、中国各地をその年に襲った洪水の跡まで広範に目を向けている。

シュネーは、随所で日本の立場に理解を示していると思わせるが、中国の立場にも同様に(より多く?)理解を示している。しかし、中立を旨とすることを国連から科せられていたためか、一歩引いて客観的にものごとを見ようとする姿勢もうかがわれ、例えば、匪賊と呼ぶものは、実は満洲国軍からパルチザンまで幅広いスペクトルを有するものであると実例を挙げて分析してみせる。興味深い指摘もあって、例えば、孔子廟において孔子が手厚く祀られている様を見て「そもそも西欧文化の国々で、このように哲人や学者が尊敬されたことがあろうか?」などと記し、中国や朝鮮、日本が西洋にない良いところを多くもっていると興味を示している。

リットン報告の内容とその背景を知る資料であるだけでなく東西比較文化論としての「満州国」論でもある。

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