嵐が丘   

E・ブロンテ(著)、 河野一郎(訳)  世界の文学 中央公論社 1963年

                                                 「その他」の目次へ
                                                 図書室の玄関へ
                                                 トップページへ

愛と復讐の物語 , 2018/7/17

あらすじ
 
都会生活に倦んだロックウッド青年は、田舎屋敷「スラッシュクロス」に住むことにし、近隣の「嵐が丘」を挨拶に訪れる。そこに住む人々の奇妙な関係に興味を抱いたロックウッドは古女中エレン(ネリー)に、ヒースクリフをめぐる物語を聞かされることになる。
「嵐が丘」には主人のアーンショーとその夫人、子供のヒンドリーとキャサリンが住んでいた。ある日、主人が身寄りのない男の子を連れ帰った。彼はヒースクリフと名づけられ、主人からは可愛がられ、キャサリンと仲良しだった。やがてアーンショーが亡くなり、主人がヒンドリーになると、ヒースクリフを下男として使うが、ヒースクリフとキャサリンは相思相愛となってゆく。二人は隣の「スラッシュクロス」の主人リントンとその夫人、子供のエドガーとイザベラを知る。彼らの優雅な生活に衝撃を受けたキャサリンは、上流階級に憧れ、やがてエドガーと結婚することに。ヒースクリフは何処かに去った。
 ヒースクリフは裕福となり戻ってくる。それはヒンドリー、エドガー、キャサリンへ復讐のためであった。ヒンドリーとの賭博に勝ち「嵐が丘」を手に入れる。次に、キャサリンの住む「スラッシュクロス」を訪れ、エドガーの妹イザベラを誘惑し、駆け落ちのうえ結婚するが、そこにあるのは冷葉と虐待だけだった。イザベラは「嵐が丘」を出て、一人でリントンを出産した。その合間にも、ヒースクリフは、エドガーに内緒でキャサリンに会い愛を語るのだが、そのせいでキャサリンは発狂し苦しみのため亡くなってしまう。胎内にいたキャサリン・リントンは、キャサリンの忘れ形見になった。
 ヒースクリフの復讐はヒンドリーの息子であるヘアトンとエドガーの娘、キャサリン・リントンにも及ぶ。ある日、キャサリン・リントンは「嵐が丘」に迷い込み、彼女はヒースクリフたちに興味を持った。特に、前に少しだけ会ったリントンがいとこだとわかると、友達ができたと喜ぶ。そこに目をつけたヒースクリフは、リントンとキャサリン・リントンを結婚させようと企む。キャサリン・リントンは「嵐が丘」でヒースクリフに閉じ込められ、リントンと結婚しなければここから出さないと脅され承諾する。数日後、エドガーは亡くなり、しばらくしてリントンも亡くなった。ヒースクリフは遂に、「スラッシュクロス」とエドガーの財産をも自分のものにした。
 ロックウッドが再訪した「嵐が丘」は以前とまったく変わっていた。エレンによると、ヒースクリフは、キャサリンに対する愛と憎しみにより、幻覚を見て発狂死したという。「嵐が丘」と「スラッシュクロス」は本来の持ち主であるヘアトンとキャサリン・リントンに戻り、2人は和解し愛し合い、いずれ一緒になるだろう。ヒースクリフはキャサリンの墓の横で、静かに眠っているのか、それとも亡霊になって、嵐が丘をさまよっているのか。


レビュー
 
この小説は、ふたつの屋敷を巡る登場人物の数が多いわけではないがやや錯綜していて、さらに時間も前後するところがあるので時々混乱して決して読みやすい小説でない。それを何とかクリアーして読み進めると、まずは、孤児であったヒースクリフとキャサリンの愛の物語が進行する。ところが、上流階級の生活に憧れたキャサリンがスラッシュクロスのエドガーと結婚するとヒースクリフは何処かに去る。そして、行方不明だったヒースクリフの帰還から、彼による復讐物語となる。それが、着々と成功を収めて行く。が、話者のエレンによると、ヒースクリフもキャサリンに対する愛と憎しみにより幻覚を見て発狂死したという。ヒースクリフの亡霊が墓の辺りで彷徨っているという噂がある。
 愛はともかくとして、それと絡んで進む復讐劇は、われわれ多くにとって非日常である。それを辿るところにこの小説を読む意義が出てくるのだろうけれど、それを作りだしたエミリー・ブロンテの想像力には驚かされる。

「その他」の目次へ
図書室の玄関へ
トップページへ