地名のたのしみ―歩き、み、ふれる歴史学 角川書店 角川文庫 (2003/08)  服部英雄(著)

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平成の大合併で地名は単なる記号や符帳に化すのか?, 2005/5/12

本書により地名に歴史を読み、歴史から地名を考えるなど、地名と歴史を行き来すると、その土地の姿がいわば4次元的に見えてきます。つまり、歴史地図の読解を実地に見せてくれる本です。地名が、単なる記号や符帳でなく、その土地の自然や長い時間をかけた生活や生産活動の結果の上にできていることがよく分かります。

本書では具体例に則した記述が続きます。その場合、字(あざ)名は、国土地理院2万5千分の1地形図にも出ていないことがしばしばで、多くは土地台帳付属の地籍図の地名などが取り上げられます。通称の場合には、地元のお年寄りから聴き取った地名が扱われます。

地名の入門書のつもりで読むと戸惑うでしょう。「はじめに」の後で「終章 地名研究入門」を読んで序章にはいると戸惑いが少なくなるのではないかと思います。いずれにせよ、地名研究への入門書です。

なお、著者が九州大学の先生なので、佐賀、熊本などをはじめ西日本の例がほとんどを占めます。また、文庫本なので、掲げられた地図が細かくて文字が読みにくいのは残念で、その点、この文庫本と大半が同じ単行本「地名の歴史学」の方が地図の掲載数も多く、より鮮明です。ただし、終章は文庫本の方が詳しくて入門的です。

ところで、平成の大合併でそのような地名が消滅し、記号や符帳になってしまうのでしょうか。しかし、それも悲しいかな、歴史のひとこまなのです。未来の日本人が、これをどう考え、どう評価するのでしょうか。


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