クラシック音楽ブーム

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今年(2006年)はモーツアルト生誕250年、来年はベートーベン没後180年。後者は、メモリアルイヤーでないが、映画「敬愛なるベートーベン」の好評もあって、ここしばらくクラシック音楽ブームのようである。

これら音楽ブームがどのようにして起こるか、そのメカニズムを考えてみた。その仮説を記してみよう。

現代は、年々忙しさが増しているように見える。競争原理の導入ばやりなどによりストレスがかかることばかりである。そのような状態のところに何かのきっかけで、優れた音楽が耳にはいると、あるいは優れた音楽のことが耳にはいると、人々は「閑」やリラクゼーションを予感し、そこにググーッと入り込んでゆきたくなる。人々は、「閑」を求め、心身をリラックスさせたくなり、CDを求めたり、コンサートのチケットを購入したり、「敬愛なるベートーベン」を見に行きたくなったりするのであろう。良い音楽を聴きたくなることは勿論、ブームとは関係なくある。しかし、ブームを起こすには優れた音楽でなくてはならないのである。つまり、平凡な音楽ではなく優れた音楽のみが、そのための効能を有しているのである。

音楽ブームが起こるには、忙しかったり、ストレスがかかったりの、多分、何らかの音楽を求める心理状況がまず前提になる。そして、人々の頭に優れた音楽のことを思い起こすきっかけが必要である。そして、CDなりコンサートなり映画などの媒体に乗った音楽が必要となる。つまり、「ストレス」「きっかけ」「媒体上の音楽」からなる3要素が十分整ってブームが起こるのであろう。付け加えれば、少しの豊かさという条件が背後に必要かも知れない。

音楽を求める心理状況は、現在、常に存在する。音楽情報もあふれかえっているといっても過言ではない。マスコミは、それら情報を流しながら、ブームを起こさせようと一生懸命である。そこにきっかけとなる事態が来ればブームは起こる。最近のクラシック・ブームはモーツアルト生誕250年や映画がきっかけとなっている。過去では、本田美奈子の死をきっかけにアメージング・グレースのブームが起きた。これは、ゴスペルという民族の歴史を内に取り込んだ黒人音楽の魅力と本田美奈子という歌手の若すぎた死が交響してのブームである。

人は生活において、忙中閑あり、ストレスにはアンチ・ストレスという風にバランスを取らないではいられない。良い音楽は、何かのきっかけでブームを起こしてそのバランスを実現する力を備えている。音楽のブームが起こるのは、人類が己の生存を確実にするための仕組みを発動させたということなのかも知れない。

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