コンゴ紀行    アンドレ・ジイド(著)   河盛 好蔵(訳)   岩波書店(岩波文庫 (1988)  

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科学者のように冷徹な眼で, 2013/3/13

ジイドが、この旅行を決心したのは20歳のことだった、そして、36年を隔てて実現した「一種の抵抗し得ない宿命によって・・・課せられた」「このコンゴ旅行」だったとも書いている。その間、ジイドは多くの文学を世に出し、この旅行の直前には「贋金つくり」を書き上げていた。文学の大家となったジイドは、この旅行で体験した事どもを年齢に似合わない瑞々しい感性を随所に発揮して書き続けた。その体力も56歳とはとても思えない。

旅の記述はダカール辺りから始まるのだが、旅の主行程はコナクリ、リブルヴィルを経てコンゴ川を遡り、ウバンギ川に入る。バンギで上陸しそこから概ね北上し、ボズム、ボザンゴア、フォール・アルシャンポー、ヤクア、そしてフォール・ラミー(現、ンジャメナ)を中心としたチャド湖地方まで、時に自動車で、船で、徒歩で、籠(チポワ)で移動する。同行するのはカメラマンでもあるマルク、その他、現地召集の数十人に上る人夫たち。

熱帯雨林から草原や沙漠まで、そこに展開する地形、景観、植物、昆虫、大小の動物(カメレオンを同行させさえする)など、好奇心旺盛に観察し、時に採り記録する。そして、風景や植物群集の珍しさ、すばらしさに感嘆の声を上げ、幸福感を謳いあげる。ジイドが動植物の名前に詳しいのに驚かされる。

それに劣らず土人(と書かれている)の貧しさや素朴な美しさ、言動を、特に純朴で素直な気質を観察し、反面の無知や愚鈍さなども客観的に眺め書いている。その反面のフランス役人や企業の駐在員の横暴な搾取ぶりには厳しい記述で冷静な批判を展開する。他方で、ジイドは親愛と誠実で土人に接し、彼らの信任を得る。これらを体験したことは、ジイドの驚きでもあり、旅行の収穫でもあった、と読み取れる。

実に多くの本を旅に携行している。薬品や各種道具類などが多く、同行する人夫の多さに直結する。本を、何かというと引っ張り出して読む。何度も読む本もある。ラ・フォンテーヌ、ラシーヌ、コルネイユ、シェイクスピア、ゲーテ、ブラウニング、ミルトン等々多岐にわたる。

チャド湖の手前でこの本は終る。



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