反デューリング論〈上・下〉   エンゲルス (著), 秋間 実 (訳) 新日本出版社 (2001/09)

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進行中の課題をはじめ、未来社会論の基本的なことも, 2015/10/29

「哲学・自然科学・歴史の諸問題についての(マルクス、エンゲルスの)見解の百科事典的見解」はエンゲルスの表現ですが、本書はそれほどの古典であって、マルクス主義の基本的文献ですが、必ずしも読みやすい本ではありません。それは、この本がなぜ書かれたか、どのような背景の下で書かれたか、その時代、どんなことがあって、この本の目的との関係でそれがどう関わったのか、といったことが現代の読者には馴染みがないことが大きく影響していると思われます。その点、この本では、1886年への序文にくわえ、訳者による詳細な注解と解説などで、その理解がかなり可能です。

それらを参考に、この論争の書を、じっくり読み進めるなら、デューリングの間違いを跡づけると同時に、本書の豊かな内容を身につけることができます。

その内容について、上巻では、序論冒頭で、社会主義の内容と形式からはじめてその基本が明らかにされます。この部分は、後に『空想から科学へ』の一部として採り入れられます。それに対し、デューリングの主張の特徴がどんなところにあるかが述べられ、それに対する反論がされます。

本論では、唯物弁証法の哲学が、自然科学の当時の最高水準の知見を使って明らかにされ、その中に、有名な「生命とは、蛋白対の存在の仕方である」とか「自由とは必然性の洞察である」といった名言も登場します。

次いで経済学の前半部分が扱われ、その対象と方法からはじまり、強力論(かつてはしばしば「暴力論」と訳されていました)が扱われ、権力など強力の経済発展に対する役割などが明らかにされます。剰余価値などは下巻で扱われます。労働時間の短縮と自由時間の増大については、上巻の最後で扱われます。

下巻は、経済学の後半として剰余価値などが扱われます。『資本論』、とくにその第一巻をはじめとした内容を簡潔に伝えてくれます。次いで、社会主義と称した第三篇には、『空想から科学へ』の核となる「歴史的なこと」「理論的なこと」が述べられています。ここでは、労働の分割により人間の発達の衰退が起こること、上巻でも扱われた労働時間の短縮の意義など現代においても進行中の課題をはじめ、未来社会論の基本的なことも触れられています。

訳者による解説が付されていて、時代背景、デューリングとは何者であったのか、デューリングの諸著が、当時の社会主義政党内でどのように受けとめられていたのか、などを中心に説かれていて、本書理解にとってとても有益です。本書の正確な理解のため、この解説を、真っ先に読んでおくことは有益です。

なお、本書の読者にとってありがたいことは、理解を容易にする解説、注解の他にも、翻訳の新しさ(新メガ「新『マルクス・エンゲルス全集』を参照していることなど。旧訳にある誤訳も訂正されています)、字の大きいこと(私のような年寄りには特にありがたい)などがあげられます。

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