永遠平和のために    イマヌエル・カント(著)  池内 紀(訳)  綜合社 (2007/11)

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カントの先見性を、若い人にも、年寄りにも  2008/2/27                                    

18世紀啓蒙思想期に、カントという大哲学者といえども、永遠平和を唱えることができたということは、今、考えてみるとものすごく先駆的だったと思います。今現在、私たちの回りにも、例えば日本国憲法第9条でさえ、変えてしまって戦争ができるようにしないといけない、と唱える偉い人がいるのですから。

戦争の歴史を考えてみると、過去から現代に向けてその規模が大となり、兵士はもとより一般民衆の死者も莫大にのぼるようになってきました。カントの時代、ゲーテも「ヘルマンとドロテア」などで戦火をのがれる民衆を描いています。近現代になると、文学の世界だけでなく現実の世界でも反戦が大きな課題となってきました。しかし、日本では前世紀の1945年夏まで、反戦を口にすれば国賊とされました。今では、戦争は御免だという人の数が戦争を認める人より多くなっていましょうが、カントの時代では、まだまだマイナーだったのではないでしょうか。その時代の著作なのです。そう、その時代に、国際連合や戦争放棄で永遠平和を、と唱えたのですから先見性の鋭さは並外れていたわけです。

この本は、岩波文庫など従来の「永遠平和のために」に比べると平易な書き方になっています。訳者の池内さんも、意識してそのようにして、若い人たちにもカントの言ったことを理解してもらって、永遠平和を考えてほしいのだと本書の解説で書いておられます。カントは、政治家にもこれを読んでもらいたかったので、短くやさしく書いているのだそうです。さらに、この本では、カントの言いたいことの要点を前半に素敵な写真入りで(日本語は勿論、英語でも)書きだしてくれています。これらを読んだだけでも、カントの深い考えの核心に触れることができます。素敵な造本です。

手っ取り早くも、じっくりとでも、いろんな密度でカントの考えを読める本です。とりわけ若い人たちに、そして年寄りの再読用にも、おすすめのタイムリーな本です。


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