ファーブル巡礼    

        津田正夫(著) 奥本大三郎(監修)  新潮選書

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幻の名著が復刊, 2007/6/5

ファーブルと昆虫記のファンにとって幻の名著であった「ファーブル巡礼」が復刊された。原書の初版は、1976年。今回の版には、監修の奥本大三郎さんによる解説が巻末に、また注釈が各章末につき、若干の訂正や補遺がされている。また、津田さんが本書を捧げた「愛する智恵子」さんがどなただったかも明かされている。

この本は、著者の津田さんが1970年代に2回にわたりファーブルゆかりの地を訪れたときの体験を織り交ぜて、ファーブルがどんな一生を送ったのかを、昆虫記などの記述、現地での資料調査やインタビュー結果などを駆使して実に実証的に展開したものである。各地でファーブルが住んだ家などを略地図で示し、写真も豊富である。ルグロ博士のファーブル伝にある記述の間違いなども指摘されている。写真に関しては、ファーブル60歳の時のものが最も若いときの写真だとの記述もある。系図、年表も詳しい。ファーブルゆかりの地をこれから訪ねるには、本書は必携である。

津田さんは、アルゼンチンのパンパの博物などについてものしたW・H・ハドソンについての著書もあるが、ハドソン、ファーブルともに、貧困の中で独力で勉強し、自然の生きものを自然の中で生き生きととらえる「野の博物学者」として大成したところがすばらしいと言っておられる。生物学が遺伝子レベルにまで深化・細分化され、自然の中で生きる様を総体としてとらえることがないがしろにされがちな現在、こうした博物学的な見方、考え方が大切になっていると思われ、本書により、単にファーブルの一生をたどるにとどまらず、感性豊かに自然と戯れ自然を認識する楽しさを多くの人が再発見されることを期待したい。

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