現代ロシアの文学と社会―「停滞の時代」からソ連崩壊前後まで   大木昭男(著) 中央大学出版部 (1993/12)

                                                
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「土壌派」に期待する,  2012/1/18

本書では、ロシア文学の流れを、副題にあるように、主として「停滞の時代」つまりブレジネフ時代からソ連崩壊前後まで跡づけますが、巻末の略年表もそうですが、10月革命以後の流れをも踏まえて理解させてくれます。あわせて、ソ連崩壊前後の「カタストロイカ」といわれるような激動が作家や文学者、そして人々の暮らしなどにどう表れていたかをも見聞し紹介してくれます。

それらの中で、ユニークなのは、ドストエーフスキイが言い始め、ワレンチン・ラスプーチンなどに引き継がれ生きてきた「土壌派」の文学につき論じているところです。

ドストエーフスキイは、民衆の文化的精神的土壌を重視し、その上にロシア人としての民族的アイデンティティーを確立することを主張したのでした。その後、「農村派」と呼ばれる作家を含め、「土壌派」の作家は、人間精神の根源的なものを農村に見、土と人間の関係を重視してきました。そこからソヴィエト時代の自然破壊などにも警鐘を鳴らし、エコロジーを重視します。ラスプーチンは「かつて土地と人間とは共通の響きをもっていたのであり、人間は土地の胎内から出たのであり、人間は土地の一部分であった」と言い、「耕して、種蒔きして、それから刈り入れる」祖国を再生しよう、と呼び掛けるのです。著者は、その源泉を、ドストエーフスキイの「救いは土壌と民衆にある」という精神に見、今後のロシア文学発展の主要な方向をそこに見ている、と読むことが出来ます。

本書は、時に応じ各種出版物に掲載してきた論文などを集めて出来ています。それ故に、上記「土壌派」のことやそれを体現するラスプーチンの作品の紹介などは何回も読むことになるのですが、それはそれで、「土壌派」とは何か、その意義はかつて、また現代、どこにあるのか、などがよく分かるようになっています。「停滞の時代」からソ連崩壊前後までのロシア文学の概要と特徴を知ることが出来る好著です。参考までに、本書の目次を掲げておきます。

 (目次)

 はしがき

 T 「停滞の時代」から「終焉」へ
   第一章 文学・文化面から見た「停滞の時代」のソ連
   第二章 ロシア民話とソビエト文学
   第三章 ソ連作家同盟第八回大会について
   第四章 ソ連における「ペレストロイカ」時代の文学状況
   第五章 スターリン時代を描いた二つの長編小説
   第六章 「社会主義リアリズム」の消滅
   第七章 政変前後のソ連作家同盟
   第八章 「ソビエト文学」とは何であったのか?

 U 荒廃の現実から再生をめざして
   第一章 ラスプーチン文学のキーワード
   第二章 魂喪失の危機への警鐘
   第三章 中編『マチョーラとの別れ』における謎賭け的な箇所について
   第四章 中編『火事』について
   第五章 ロシアの再生をめざす「土壌派」作家たち
   第六章 ラスプーチンに聞く

 V ソ連の末期とロシア
   第一章 リトアニア市民の素顔
   第二章 ソ連――1989年の熱い夏
   第三章 ソ連における文学者とエコロジー問題
   第四章 ロシア――1992年の春
   第五章 ロシアは何処へ行くのか?
   第六章 ドストエーフスキイの予言と社会主義

 あとがき
 ソビエト七十四年間の文学社会史略年表
 作家名索引


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