誰も書かなかった義勇軍
 
   吉野 年雄(著) 光陽出版社 (2007/10)
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満蒙開拓青少年義勇軍の「常識」を覆す実証的考察
, 2008/3/20

この本の著者、吉野年雄さんは、満蒙開拓青少年義勇軍内原訓練所(茨城県)から1941年3月に渡満し、満洲の地で3年余の訓練所生活を経験し、その後、関東軍入隊、シベリア抑留、牡丹江逆送を経て1958年に帰国しています。その経験を通して、義勇軍にまつわるいくつもの疑問を抱いていました。吉野さんは、その疑問を解こうとして調べ上げた結果を紹介してくれます。

それらの疑問とは、義勇軍が誰により作られたのか、加藤完治をはじめ民間の発意と熱心な働きかけによるとされているが、それは本当か。義勇軍に課せられた任務とは、本当に満洲の開拓だったのだろうか。訓練所の劣悪な食生活などにうかがわれる極端な窮乏生活は何のためだったのか。著者が送り込まれた東寧の訓練所の目的は一体何だったのか。そして、義勇軍とはそもそも何だったのか。多くの参考文献や証言を渉猟しそれらを解き明かします。

それらの検討を通して、たとえば、青少年義勇軍が渡満後、青年義勇隊に変名する経緯を明かしてくれます。その他、しばしば巷間で語られている満蒙開拓青少年義勇軍の姿とは大きく異なる像を描きだします。推定調の書きぶりが目立ちますが、それは、不明だったところを確実な史料により繋いで考察する著者の真摯な執筆態度を示すものでしょう。

この本を読むと、今まで余り知られることのなかった義勇軍の実像を知るにとどまらず、「満洲」とは一体なんだったのか、を考えさせられます。満洲問題の基本的文献が、もうひとつ増えた気がします。



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