灰色の石に坐りて―辻邦生対談集  辻 邦生(著) 中央公論社 (1974)

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辻作品の読み所、制作にあたっての想いがよく分かる,  
2011/1/4

以前にも読んだことがあるのですが、再読して改めていろいろ考えさせられました。

この本で辻邦生は、北杜夫、篠田一士、古屋健三、清水徹、遠藤周作、丸谷才一、菅野昭正、浅利慶太と対談しています。1970年代初頭までの辻邦生の作品とその制作にまつわる話題を対談者の問題提起などを通し語り合っています。それらを読むと、「夏の砦」「安土往還記」「天草の雅歌」「背教者ユリアヌス」などの長編やいくつかの短編の読み所、制作にあたっての想いがよく分かります。

これらの対談を読んで気がついたことがあります。その最大は、「背教者ユリアヌス」が、歴史文学の傑作というばかりでなく、現代の課題を追及した文学なのだ、ということ。そう思ってこの長編を思い出してみると、確かに古代から中世へという変化・激動の時代に横たわる問題を想うことが、今現在、当面する時代の曲がり角における問題を考えることに通ずるのです。この作品は、そうした大きなスケールの文学であることが分かり、改めてそうした目で読み返したくなるのです。

こうしたことが見えてくるのも、作品の持つ意味のチャンとした理解を促す対面的対談の効用ではないでしょうか。そして、古い対談ではありますが、時空間を超えた普遍を求めた辻文学なのですから、今読んでも新しさを感ずることができるのです。


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