百年後の友へ―小説・大逆事件の新村忠雄    かもがわ出版 (2011/10)

                    崎村 裕(著) 

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語り伝え、克服されなければならない大逆事件, 2012/3/8

2011年に100年目を迎えた大逆事件。まずは、参考までに事件の概要をおさらいしておきます:
1910年5月以降、天皇暗殺の容疑で26名が逮捕され大逆罪で起訴されました。大審院特別法廷は、1911年1月18日、秘密裁判により、ほとんど証拠もないまま24名を死刑、2名を無期懲役と断じ、翌19日、天皇による恩赦として死刑者の半数を無期懲役に減刑します。そして、24日に12名、翌日1名の死刑が執行されました。冤罪事件であることはほとんど明確であるにもかかわらず、戦後に出された再審請求も東京高裁、最高裁により棄却されました。

本書は、副題に「小説」とありますが、ノンフィクションを頭に付した方がよいと思われます。

本事件で死刑に処せられた新村忠雄の生い立ちから始まります。以下、著者は、事件の全体像を明らかにしつつ新村に比較的詳細な筆を振るいます。しかし、さらに多くを、数多の事実をもってこの事件が冤罪であることを示すところに割いています。たとえば、裁判までの過程で問題とされた会合が、いかに謀議にこじつけられたか 手紙の内容がいかにテロにこじつけられたかなどにつき、その会合や手紙の内容を具体的に追い、「検事聴取書」や「予審調書」、「判決書」などを引いて明らかにしています。それらを通して事件の本質がよく分かります。

近年になって、四万十市、新宮市をはじめとしてこの事件で裁かれた人々の名誉回復と顕彰の動きがあるものの、この事件の暗い影はいまだ拭われたようには見えません。この事実は、忘れ去られないよう語り伝え、克服されなければならないのですが、そのための資料としても本書のもつ意義は大きいと考えられます。「百年後の友へ」というわけです。

なお、新村忠雄と著者とは同郷なのだそうです。

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