田舎教師   田山花袋 (著)  新潮文庫; 改版 (2013/8/15)

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 身のまわりの半数の人は「田舎教師」?   2018/3/28

林清三は、中学を終えると文学の野心に燃えつつ埼玉県の田舎小学校の教師になった。しかし、文学同人は解散し、音楽に興味を移し音楽学校を受験するも不合格、野の草花の写生や植物採集などに熱中しつつ、より上級の検定を望むが、やがて肺病に冒され没する。

時は、日露戦争に突入する頃、つまり、日本の近代化に向け国中がかりだされていた頃、立身出世に代表される上向姿勢があちこちに漲っていた時代だった。そのなかでは、林青年は、後ろ向きな生き方をしていると周りには写ったかも知れない。事ごとに消極的で中途半端、気分はメランコリックで、嗜好は地味。伸びるであろう特徴的な才能が取り立てて見えるわけではない。換言すれば、どちらかといえばネガティブ思考が勝る平凡な青年である。そんな人格は、当時、少なくなかったであろう。

田山花袋が、そんな人格を主人公に持ってきたのは、たしかに、そんな時代に埋もれてしまう人間を描こうという田山独特の考えによるのであろう。つまり、日本的自然主義=私小説作家の作品なのである。そのなかでも、田山が大事にした平面描写の手法をつかった代表作かも知れない。林青年とその周りの人物だけでなく、彼が生活した羽生、行田を中心とした北関東の四季風物、まわりにあるおびただしい種類の野草や作物などが、他の作家にはないほどに多く描かれる。それらの描写は繰り返し淡々と展開され、時に読者を眠りに誘いさえする。これは、田山独自の創作方法なのであろう。

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