フランシス・ジャム詩集 フランシス・ジャム(著)、 手塚伸一(訳) 岩波書店(岩波文庫)(2012/1/18)

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こういう現代にこそ、読むに値する詩群, 2012/2/13

訳者手塚さんは、本書で、フランシス・ジャムの13の詩篇から200近い詩を日本語に移し替え編んでくれました。ピレネー山脈北麓の自然をちりばめた詩がふんだんに並びます。ジャムは、釣鐘草や薔薇や薊、山査子や樫、ミヤマガラスやウサギ、驢馬、川の流れや風のそよぎといった自然界の諸々、そしてそれらに並べて、愛のときめき、破れた恋の切なさなどをもうたいます。

象徴詩が華々しく迎えられていたジャムの時代、それと違う詩風が、多く売れることはありませんでした。が、そこに貫かれた古くさいとも思える分かりやすい詩風は時代に左右されない伝統的な良さを醸しています。新機軸スタイルのジャケットではなく、太糸の手織りセーターといった時と空間を越えた親しみを感じます。

それらの詩を読んでみて、自然が分かりやすく共感をもってうたわれており、まことにしっくりきて、こういう現代においてこそ読むに値する詩群であると思います。が、ちょっと気になるのは、ジャムがこれらの詩においてうたう愛は、男がうたった愛で、したがって当然なことに女の側の愛はほとんどみえず、そこから私は、愛の優しさとともに我が儘をも感じ取ったのです。「三人の乙女たち」などの散文では、もっと少女たちに対する思いやりが強く心に響いたように記憶するのです。その違いが、読後、オヤ!?という気持ちで残っています。でも、それは末節にわたること、ギスギスした世相のなか、多くの方々に読んで頂きたい詩集であることは間違いありません。

ジャムを愛した堀辰雄が「僕は驢馬が好きだ・・・・」の詩から、同人誌に「驢馬」と名付けたことをはじめとして、手塚さんの解説は詳しく、ジャムの詩と人となり、彼を取り巻く時の流れなどを理解するうえで有益です。
                                               

                                                          (2012/02/13)

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