風   
     

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南方に接近中の台風から
湿ぼったい風が送られて
庭で
シランの葉が
ユラユラと輝いた

その朝、
小泉首相が靖国神社に参拝した

網戸を越して
スッと入ってきた風が
Tシャツの背中をなぜた

すると

そこには
悪戯盛りの僕がいて
風が
胸の辺りまで育った稲と
畦に育った大豆の葉とを
ユラユラ揺すって通り

用水を足で漕ぎ漕ぎ
下ってくる近所のアンちゃんと
クネクネとこちらに向かう
鰻がいた

その時、僕の背中を
なぜた風が
今、よみがえってきた

思えば

その時は、
あの戦争が終わり
ひと息つき
さあ、新しい時代を作ろうと
人々が燃えていた

そして新しい憲法があった。
僕は、そんなことは
少しも知らなかったが
来る日も来る日も
新しい遊びに忙しかった。

夕方近くなって
風はますます湿気を帯びてきた。
台風が上陸する、
とテレビが伝えた
 
                                                                       (2006.8.15)

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