宮沢賢治の青春 ―“ただ一人の友”保阪嘉内をめぐって    菅原千恵子(著)  宝島社 (1994)  

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賢治の作品を保阪嘉内との交友と別れから読む,  2012/1/14

「銀河鉄道の夜」のモチーフを宮沢賢治と妹とし子の兄妹愛に求める説に対し、著者らがそれと全く異なる説を出したのは1972年の「文学」(岩波書店)誌上の論文「『銀河鉄道の夜』新見−宮澤賢治の青春の問題」においてでした。盛岡高等農林時代に始まる保阪嘉内との交友と別れにあるという説でした。主として賢治から嘉内への手紙に依拠した新説でした。本書では、その後の著者の研究によりその説が実証され、一層多くの作品がその文脈により明快に理解できることが示されています。

本書で、おもに扱われる作品は、文語詩「図書館幻想」、詩篇「冬のスケッチ」とその後に続く詩集「春と修羅」のなかから主として「小岩井農場」「無声慟哭」「オホーツク挽歌」そして、「銀河鉄道の夜」です。さらに、その前後の賢治の諸行動をちりばめながら、羅須地人協会や東北砕石工場における活動などを同じ文脈において読み解いています。

全体として納得の行く論建てとなっています。勿論、著者も書いているように、賢治の作品と行動の全てが、この文脈でカバーされ尽くすわけでなく、事実、著者は、別に、賢治の青春時代を家族や友との関係を広く取り上げて小説「満天の蒼い森―若き日の宮沢賢治」(角川書店、1997年)において展開しています。この延長線上で同様な作業を追うとすれば、ほとんど果てしなく続くはずです。しかし、それはなされなければならない作業のように思われるのです。

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