女の一生〈1部〉キクの場合 朝日新聞社 (1982/3)   遠藤周作(著)

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愛が歴史に拒否される時、神は何をなしうるか, , 2010/2/13

津和野を訪れると、乙女峠でマリア聖堂なる建物に接して、なぜここにこんな建物があるのだろうかと思ったことがあります。観光案内書によって、明治元年、長崎の隠れキリシタンがこの地に連れてこられ改宗を進められたが、多くがそれを聞き入れず36名が殉難した、ということを知ったのですが、それ以上に知ることなく過ごしてきました。

この小説のおもな出来事が、いわゆる「浦上四番崩れ」とそれが展開された明治維新前後の長崎と津和野における顛末です。その流れの中で、ひとりの少女キクが隠れキリシタンの少年清吉と出会い、それが彼女の愛としてどう育まれどうなっていったか、が描かれます。そして、作者はそれらを通して、キリスト教がそれら苦難に対しどう係わったのか係わらなかったのかを追及し、「沈黙」「母なるもの」などの作品に通づるキリスト教の課題を追います。

この本を読むと、上記津和野のマリア聖堂の歴史的意味を知ることとなり、信教の自由がこの事件により、当時の条約改正の歴史とからんで勝ちとられてきたことをも知ることとなります。そして何よりも、愛の人生が歴史の流れによって拒否されるとき、キリスト教が何をなし得て何をなし得なかったかを考えることとなります。その答を作者は明示していません。読者にも作者と共に考えて行こうではないか、と語りかけているがごとくです。

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