悪法作りの小泉方式
   

エッセイの目次へ戻る

悪法作りの小泉方式とでもいえるやり方が、いろいろなところで威力を発揮している。それらは、私の関係した国立研究所の独立行政法人化、今回成立した宇宙基本法、そして大批判に晒されている後期高齢者医療制度などに見て取れるのである。ひとことでいうと、基本法などを、反対しにくい抽象的内容で通しておいて、その後、政府作業などを通して有無を言わせず実行に移すというとても狡い方式である。

私が、現役時代の終わりに近く、勤務していた国立の研究所が独立行政法人に改編された。この独法研究所制への移行の結果、今になってみると、良くない事態が進行していることがよく分かる。公務員減らしの数会わせに利用されていることなどとともに、当初から心配されていた基礎研究がおろそかになること、競争的要素が過剰に持ち込まれる恐れなど、研究の発展にとって好ましくない要素が、予想通り実現していることのほか、とりわけ、予算や人員が予想以上に厳しくなっている。

研究所は勿論、各省庁の現場も、発案されたときには、いろいろな理由で猛反対した。しかし、通則法という、一般的に言えば基本法が閣議決定される段階で、反対の旗を降ろしてしまった。通則法では、美辞麗句で研究の発展をうたっているので、字面からは反対する余地がなくなったからである。

ところが、その後、個別法が出てくるにつれ、そんなはずではなかった、というところが少しづつ見えてきて、実施に移されるにつれて、問題点が加速度的に見えてきた。所管省庁や各独法研究所では、問題点を回避する策を毎年のように考え出しては組織の手直しなどをやったりして、減り続ける予算や人員をカバーしようとする。人員に関しては、定員内職員が減り、非正規雇用の研究者が増えてくる。非正規雇用はここでも(!)である。その対象は、多くは就職先のない若年博士である。

基本法で、抽象的なことを、時に玉虫色に書き込んで反対できなくしておき、個別法や、国会がかかわらない施行規則などによって、本音のところを徐々に書き込んで国民が反対しても与党がやりたいことを実行できるようにする。このやり方は小泉首相の下で、規制改革などを強引にやるときの常套手段として完成したものである。

最近可決成立した宇宙基本法も、この手で進められようとしている。宇宙開発は、かつて「平和目的に限る」という国会決議により、軍事利用を厳しく制限されていた。ところが、今回は、基本法の段階でさえ、「安全保障に資する」ということを書き込んだ。この文言が書き込まれたのは民主党との共同提案を実現したからと考えられる。これは、今後、法体系が整備されて、ほぼ間違いなく軍事利用が可能になることを意味すると予想される。それらを裏付けるように、法案が成立した夜、軍需企業が多く参加する日本航空宇宙工業会が総会を終え、祝宴を開いたということが報じられた。軍需企業=死の商人は、湯水のように税金を注ぎ込んでもらえて甘い汁を吸えるのである。

これらと類似の経過は、高齢者老人医療制度にも見られる。この法律が成立したのは、2年ほど前のことという。その時になぜ、今のように批判が噴出しなかったのか。多分、文字面だけの抽象論議で玉虫色の法案として成立に持っていき、その後、具体化のための厚労省の作業の中で、今、皆がビックリするような中身を作ってしまったのに違いない。

まさに悪法作りの小泉方式が大手を振ってのし歩いている。しかし、その先には、大きな墓穴が待っているに違いない。

エッセイの目次へ戻る