完訳 ファーブル昆虫記 第9巻 上
ジャン=アンリ・ファーブル (著), 奥本 大三郎 (翻訳)    集英社 (2014/5/26)

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蜘蛛の生活、その真髄。クモの巣の幾何学はユニーク,    (2015/1/7)

この巻は、8巻下の最後の2章につづきクモの記述がほとんどです。クモは、2巻11章でも扱われています。

いうまでもなく、クモは厳密には昆虫ではありません。それにつき、ファーブルは前巻22章で「クモは昆虫でない・・・・だが分類学なぞこの際どうでもよい。・・・・本能の研究において、そんなことはたいした問題でない」と、彼の立場を明かしています。

さて、この巻では、既に2巻、8巻でおなじみのナルボンヌコモリグモ、さらにコガネグモの仲間、アズチグモなどが登場します。ナルボンヌコモリグモはどうやって地面に穴を掘るのか、クモの子供はどう生まれ、育ち、拡散して行くか。雌雄の出会いも描かれます。巣の網の張り方が詳細に観察され、壊れたらどうするかの実験も企てられます。クモ自身は罠にかからないのかと観察を深めます。獲物が網にかかったのをどうやって知るか、夜行性のクモ、網の外に隠れ家を作るクモについても調べられます。そして、巣の網が対数螺旋をなしている場合を考察し、動物の形態に関する幾何学の一端を分かり易く示してくれます。あわせて、そのような数学をファーブルがどのようにして学んだかが回想され、さらに、執筆に使われた小さな机が、数学の学習にも使われたことが語られます。

私も、アルマスの博物館を訪れた時にその机を感慨深く眺めたことを思い出し、ファーブルさんをいっそう身近に感じました。

なお、この巻も訳注が充実していますが、とりわけ、芥川龍之介『女』とファーブルの記述との関連を考えさせる解説は興味深く読ませてもらいました。これは、科学読み物と文学との異同を考察する良い材料となっています。


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