湖畔―ワーズワスの詩蹟を訪ねて 講談社学術文庫 (1977/09)    高木 市之助(著)

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ワーズワスの作品とともに湖水地方を旅する, 2009/07/24

著名な国文学者が英国留学時の湖水地方旅行(1925年8月)を、後日(1950年)、回顧しながら著したユニークな紀行文です。

何がユニークかといえば、まず、第1に、ワーズワスの詩を中心に読みながら湖水地方を訪ねる体裁をとっていることです。詩は、原文を載せ、著者ご自身による対訳を付してくれます。ワーズワス縁の地を、ワーズワスがどう歌っているのかは、原文を口に出して読むことで一層理解が深まるということを主張し、読者にその可能性を提供します。

第2に、国文学者である著者が、このように詩を読みながら湖畔をたどるとき、詩と言語がその土地、人、風土とともにあることを、身を以て示すだけでなく、そうした言語あるいは文芸が著者の中において、国を越えて相対化されていることをうかがわせます。はしがきに曰く、「文芸における自然と詩人との関係についても、あるいは東西文芸のありかたについても、これが私の文芸論だといっていい」と。そして、時に応じて「小夜の中山」を思い、源氏物語を語り、東西の文芸をイングランドの湖畔において考えるのです。

イングランド湖水地方は、現在も日本人のお気に入りの観光地になっています。多くの方が訪れますが、その時、同地方のいずこかでワーズワスの詩の一節を思い出し、自分の故郷や日本の文芸のなにがしかとの異同に思いを馳せることがあれば、その旅は一層稔り多いものになることでしょう。その可能性を開く本、それがこの本であるかも知れません。

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