満洲国の文化―中国東北のひとつの時代  
                              西原和海ほか(著) せらび書房 (2005/03)
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知られていない満洲文化の担い手達, 2005/5/25

文学・作家、漫画、演劇、音楽、観光など、満州国時代の文化に関する13編の論考からなり、文学・作家論が9編と中心。興味本位で簡介すれば:

満洲国でどんな作家が生まれたか、特に中国人に関しては知らされてこなかったので、読んでみて新鮮。魯迅に見いだされ優れた作品を残しつつも若くして逝った粛紅。黒龍江省に生れ、そこに根を張った作品を紡ぎ出した遅子建。混迷と絶望の中で、ヒョットすると世界的視野で満洲の地を眺めていたかも知れない姜霊非。自分の体験やゆかりの人の人生をしっかり眺めて歴史に安易に流されまいとしたと見える粛軍。等々。私などは、引用された断片ではあっても粛紅の描く北の大地の自然描写にとても親しみを憶えます。

日本人も、ごく一部の文壇作家は知っていても、若くして才能開花の途上で夭逝した場合など、今まで知る機会がありませんでした。きらきらした宝石の断片を感じさせる詩を紡ぎ出し、20歳で自死した廿地満。鋭く独自の文学評論を放って満洲で其界をリードしつつも終戦を待たずに逝った木崎龍。日中相互に翻訳に務めていた人々の努力。等々。

新劇が内地で禁止された時期にも満洲では大連芸術座などの努力で維持されていたこと。ハルビン交響楽団がわが国の交響楽団の先頭を走ったことは、もっと多く語られても良いエピソード(『王道楽土の交響楽』)です。

早稲田大学旅行会という学生組織が、満洲事変進行中にも満韓への夏休み旅行を行っていたことは、旅好きの私にとって大変な驚きでした。父親の月給より高いかも知れない大金をはたいて旅行した学生達が、その後、どのような人生を送ったのかを知りたくなりました。

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