寺田寅彦は忘れた頃にやって来る    集英社 (2002/05)  新書

                   松本 哉(著)  

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未来の寺田寅彦よ、来たれ, 2002/8/27

20世紀は科学技術の時代だったといわれることがある。しかし、科学技術が社会に実現されるときには、きわめてしばしば、その経済性のみが拡大される。その結果がどうなったかを20世紀がまた示している。明治後半から昭和初期の時代を生きた科学者、寺田寅彦がそのことを照らし出しているぞと、時に洒脱で時に写実的な寺田の文章を多く引用しながら、比較的淡々と紹介しているところに、本書のもっとも現代的な意義がある。

 寺田寅彦は、かなり忘れられてしまった。しかし、彼の随筆群を本書で紹介されたもののみでも読み直すと、視野の広さのみにとどまらず、意外に現代に通ずるところがあって、これからの世の中どうなるのかを考えるとき、示唆されるところが多い。忘れた頃にやって来る、というわけであろう。

 しかし、寺田寅彦は、自然科学者であり文人であったが社会科学的ではない、と本書の寺田評は言外に示唆してもいる。経済性のみを拡大させないためには、彼のような人が増えればずいぶん力になる。しかし、21世紀を20世紀の輝かしい成果と痛ましい屍の彼方に築くためには、寺田寅彦を社会科学にも通じた俯瞰力をもった人間として甦らすことが必要ではないだろうか?未来の寺田寅彦よ、つぎつぎと来たれ。

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