モンブランに立つ―
“生きがい療法”と勇気あるガン患者たちのドラマ
  
   平尾 彩子 (著) 1988/7

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 7人のガン患者がモンブラン登頂に挑戦した , 2017/7/28

伊丹仁朗医師は、1980年代初から、「生きがい療法」を提唱、実践していた。この「生きがい療法」は、生きる目標を持ってガンなどの病気と闘うと、そうした心の状態が脳の免疫中枢(間脳)の働きを活発化して、癌と闘うリンパ球の働きを高め、病気と闘う人の生存率を大幅に高める、という欧米を中心とした精神神経免疫学の研究成果を応用した療法なのだという。

この療法を勉強し実践、普及するための「生きがい療法実践会」に集まった癌患者の中から七名が、その実践ということでモンブラン登山に挑戦した。モンブランの山頂に立つことを絶対の目標とするのではなく、それぞれの実情、現地の状況に応じて最高のパフォーマンスをおこない、あわよくば登頂も、というやや緩い目標を立てていた。事前の訓練もしっかりやった。体力をつけるために何十キロの歩行訓練をし、重いものを背負う訓練もしたうえで国内のいくつもの山を登攀し、最後は、全員で富士山での高度・雪山訓練をし、モンブラン登頂に向け備えをおこなった。これらは、心と脳の総合的トレーニングであった。

1987年夏に彼らは出発した。現地でも、高地順応訓練をしたりして、モンブランに取り付いた。患者、サポート隊、ガイドが組を作り行動した。警備隊員も同行した。天候が余り良くなかったこともあり、頂上近くの山小屋までは全員登ることが出来たが、登頂できた患者は三名だった。下山もすんなりとはいかなかった。しかし、何はともあれ、モンブランをめざし挑んだ7名の全行動が、「生きがい療法」の実証そのものであった。

30年前から比べると、医学も進歩し、「生きがい療法」のような考え方も随分広まり発展を見ており、多くの患者がその考え方による闘病を実践しているようである。この方向は、明らかに前進を示していると思われる。

この本は、そのサポート隊の一人が、7人のそれぞれの物語とともに、ガンと闘いモンブランに挑んだ様子をまとめたものであり、迫真のルポルタージュである。それらを通して、「生きがい療法」の考え方をも具体的に解説してくれている。

実は、7人のモンブラン挑戦から30年目の現在、彼らの後輩がモンブラン登頂をめざしており、今日(7月28日)、日本に帰り着いたはずである。まもなく、彼らの挑戦の様子が伝えられるであろう。期待してその報を待ちたい。

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