夏めぐりて    民主文学自選叢書 箭内 登著 東銀座出版社

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終戦から1年間、ある若者の満州における歴史経験, 2005/8/24

ソ連軍の突然の参戦、終戦、引き揚げという満州の夏から夏までの1年余を中心に、おもな舞台は長春。17才の主人公の見たこと、経験したこと、考えたことを淡々と描く好編。柳じょや玉蜀黍の葉群れのきらめきなど、自然描写もちらりと光っている。

敗戦を機に大きく変わる人々の生活、ソ連兵の掠奪、国共両軍兵士の異同、貧しい中国人の諸相、引き揚げ途上のひとこまひとこま、垣間見てしまう女性の秘密、淡い恋心・・・。大きな山やどんでん返しはないけれど、ひとこまひとこまが人間に共通する姿と誰もができないような特異ともいえる経験とが連なる長鎖。長春再訪記も。満州における戦争のもたらした歴史の諸相を終戦からの1年間に焦点をあてて語り継ぐ作品のひとつとして多くの人に読んでほしいと思う。

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