のちの思いに   辻 邦生(著) 日本経済新聞社
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辻邦生、青春の時、そして師と友人を語る,  
2002/7/22

「二枚目半のところで原稿が中断されたままに終わった」という、新聞連載から成った本書は、単なる自伝でも回想記でもなく、辻邦生が作家として功を成すプロセスを人との出会いを中心に辻の生きた風景をも描きつつ再構成して私たちに残してくれたように思う。文学への啓示を得たというパルテノン神殿のことをはじめ、彼の文学人生のエポックが、多分、すべて触れられている。とりわけ、「リスちゃん登場」と題した章が佐保子夫人との出会い以降をかなり心を込めて書かれていることは、辻作品の中に多く現れる女性が何なのかを示す鏡となっているように読める。「魂に呼びかける詩の言葉が特別のものであるという文学の真実」とか「愚かしいことかもしれないが、文学が好きだということは、現実と仮象をとりちがえ、その夢を本ものと思って生きることだ」のような文学論のきらめきが至る所にちりばめられている。本書から辻文学のエッセンスを学びとることが出来る。


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