ペスト   アルベール・カミュ(著)  新潮文庫 改版 (1969/10)

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不条理にとらえられた登場人物たちと対話しながら読む, 2009/3/20

ペストの流行が確認され封鎖された街、そこにおける人びとの生きざまが、医師の目を通して、数人の主要登場人物を中心に描かれます。封鎖の一年足らずの日々の間に、死に行く人びと、身内を亡くす人、病疫を潜り抜ける人、自分の人生観が変わる人、それを変えない人等々、いろいろな人びとが描かれます。

作者の書きぶりによるのですが、この街(物語)は、何かの寓意と考えることが出来ます。それは何か、といえば、いろいろに考えられます。普通には、ナチスにより占領されたフランスなどを考えるかも知れませんが、政治・経済の閉塞感にさいなまれる現代日本社会もあるでしょう。その他、温暖化など環境問題を抱える宇宙船地球号、あるいは、働く者がモノ扱いされる大企業という閉鎖社会等々、たくさんの事例が可能でしょう。いずれにせよ、カミュは、不条理といわれる状況に置かれた人間が如何に生きてゆくか、を問うているわけですが、そこのところを、具体的な描写場面において登場人物たちの言動をゆっくり吟味しながら読む、すなわち彼らと対話をしながら考えてゆくプロセス、それがこの小説の醍醐味だろうと思われます。

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