サンクト・ペテルブルク断章―遺伝研究者のロシア滞在記   山田 実(著) 未知谷 (2004/05)

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遺伝/育種研究者の見たサンクト・ペテルブルク, 2011/10/20

著者は、作物の遺伝・育種を研究してきた農学博士です。音楽、文学、美術から生活文化、歴史などにも強く関心を持っておられますので、このような本を書くことが出来ました。 五つの章からなっていますが、目次の括弧書きされた各章の副題に何が書かれているかを端的に見ることができます。いわく、人と言葉、ピーテルの暮らし、ロシア人の想い、主義と信仰・芸術の世界、ソビエト体制が残したもの。著者は、サンクト・ペテルブルクを親しみを込めピーテルと呼びます。

世界の都会を紹介するのに、いわゆるガイドブックの類は数多ありますが、その対極に、個人の目から見た/目に映ったこどどもを自由に綴った本があります。前者が情報源として有用であるとすれば、後者は、しばしば独特な視点からその都市の面白い面を抉って見せてくれ興味深く読めます。この本は、後者に属しますが、 著者の専門柄、ピーテルのバビロフ名称植物生産研究所に滞在していた当時のエピソードや作物・食料に関する話題が豊かで興味深いことは勿論のことです。それは、本書の副題からも推測できるとおりです。あわせて、上記の通り幅広くトピックスがちりばめられるのですが、ピーテルのどこそこがどういう場所なのかという記述も多く、旅好きの私には、そうした記述がとても面白かったです。たとえば、空港につながるモスコフスキー大通り沿いは、市内から外に向かって、建築が、18、19、20世紀、戦後、最近と新しくなって行く、とか、センナヤ広場のセンナヤとは干し草のことだが、この広場の回りには、ドストエフスキー、ゴーゴリなどの登場人物がうようよと歩き回っている、とか・・・。

著者がピーテルに滞在したのは、1997年から3年間で、その後も毎年2回ずつ訪れ、この本が出版されたのが2004年です。そうした頃のピーテルの事情が、広い視野から描かれています。今、ピーテルを訪れる人が、この本を読んで行くならば、時には当時との比較をも深め、生きたピーテルの理解を得られる可能性がふえると期待されます。もちろん、それを成功させるかどうかは、読み、旅をする側のチョットした努力にかかってい るわけです。また、すでにピーテルから帰った人が読むならば、見たのと違うピーテルの姿を知らされたり、 印象を一層深めたりすることが出来るのではないでしょうか。

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