企業の基礎研究と応用・開発研究  
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企業における研究は、応用研究というか、むしろ開発研究が主流と聞いていた。研究者個人の専門に係わらず、ましてや個人の関心などとは無関係に、企業が必要とする課題やプロジェクトに決められた期限に白黒をつける、勿論シロでなければプロジェクトにはなっていないのだから、結論を出さなければならない、というスタイルが普通と聞いていた。反面で、企業の基礎研究は、長期的戦略的見通しがあって初めて実行可能となると認識していた。しかし、当社の場合、それとはかなり違っていて戸惑いが大きかった。それが、最近、ある事例を通してどういうことか分かったような気がした。

それは、開発競争が激しい商品には、当社の技術的優位をしてアドバンテージが明確でないかぎり条件が良くとも手を出さない、という原則があるらしいのである。そのような課題が提起された時、研究レビューはそこそこはする。しかし、最初から腰が引けていたらレビュー結果もそれにひかれることが多い。

上述の原則の下では、どうしても基礎研究が多くなりやすい。基礎研究には、いわゆる無駄として企業では通常切り捨てられるものが多く含まれる。下手をするとなかなか役に立たない課題が多くなり、特許はとれても使われず維持費のみ浪費することになりかねない。

かくして、確実に製品に結びつく開発研究と先が見えない基礎研究とに二分され、中間が空白となる。どちらかというと基礎研究が多くなる。

基礎研究について言えば、そこから大発見が行われることがあるのでそれは勿論必要なことであるが、それはそれにふさわしい環境において優秀な人材が強い向上心をもって臨んだ結果として発生することを認識しておく必要がある。

基礎研究でも、ワトソン・クリックとポーリングとの二重らせんをめぐる競争を持ち出すまでもなく、しばしば激しい競争が見られる。ライバルとの競争も良い成果を上げる励みにはなるけれど、本質的には真理の追究という高みを目指す飽くなき向上心がなければ競争には勝てない。それに加えて環境、つまりその研究機関に、そのような基礎研究をするというコンセンサスと戦略が必要なのである。

企業で基礎研究をするならそのための長・中期の戦略を建てる必要がある。さもないと、無駄な研究投資がふくらむ。基礎研究の蓄積そのものが当社の研究戦略である、というならそれでも良いのだが、その下では商売せよとは言えない道理となる。IBMの研究所はそれであった。普通の場合、研究所あるいは会社として、商売になるところまでの道筋、つまり戦略が必須ではなかろうか。そのもとではじめて、戦略を眺めつつ基礎研究に打ち込めるのだと思う。具体的な戦略が作れないのなら、基礎研究などやめて応用・開発研究を重視し他社とのデッドヒートを展開すべきであろう。


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