赤と黒   スタンダール(作)小林 正(訳) 新潮社 世界文学全集 1963/3

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歴史の中でジュリヤンの生涯は・・・ , 2016/5/14

あらすじ

ジュリヤン・ソレルは、フランス南東部の山間に位置する小さな町ヴェリエールの材木屋の息子である。記憶力がとても良く、ラテン語の書物や聖書などを暗誦できる。町長のレーナル家の家庭教師となる。ジュリヤンはやがて、レーナル夫人と恋仲となる。シェラン神父により、ジュリヤンは神学校行きを命じられ、ブザンソンの神学校に入る。聖体祭でレーナル夫人に再会する。神学校の旧約・新約聖書の教師に任命される。ピラール神父が、ジュリヤンをパリに招いたため、神学校を去るが、それに際し、レーナル夫人に別れを告げる。パリでは、彼はラ・モール侯爵の秘書として働く。彼は、パリの社交界を知り、ボーヴォワジ従男爵と決闘、オペラ座通い、ロンドン滞在、受勲などを経験する。イェールに母親と行っていたラ・モール嬢は、自分のいない間にジュリヤンが大きく変わっていることに驚く。ジュリヤンは、マチルドと親しくなり、やがて彼は彼女の部屋に忍び込む。ジュリヤンは、侯爵に秘密の会合に連れて行かれ、密書を託されそれを暗誦しパリを発つ。大官に密書を報告する。その返事をもらいパリに戻る。コラゾフ公爵のさしがねでフェルヴァック元帥夫人に手紙を出す。マチルド、妊娠。侯爵それを知り激怒、ジュリヤン、侯爵邸を出る。マチルドが、侯爵に結婚を承諾させる。ジュリヤンは、中尉に任命され、ジュリヤン・ソレル・ド・ラ・ヴェルネー従男爵となる。ストラスブールに赴任。レーナル夫人のラ・モール侯爵宛の手紙には、ジュリヤンが金と出世のみを願ってその家のいちばん信用のある女性に手を出す男である、と書かれていた。ジュリヤンはヴェリエールに急行し、レーナル夫人をピストルで撃つ。投獄。公判で死刑宣告。一八三一年七月二五日、ジュリヤン、処刑される。「一八三〇年年代記」と副題にある。


レビュー

ジュリヤン・ソレルが、一八三〇年時点における青年の典型と考えてよいとすれば、次のようなことが考えられる。この時代、フランス大革命、ナポレオンの時代、王政復古とつづいた激動の時代のすぐ後である。その中で、赤と黒に象徴される軍人と聖職とになって出世するということはどれ程の意味があったのだろうか。もちろん、そういう時代は、何が真で何が偽か、何が正義で何が不正義か、分かり難い時代ではある。そのなかで、若者が何かを求めて実力を養い延ばすことは大切なことだろうが、それらが歴史の流れと無関係に行われるならば、いかに華々しくともどこかで破綻に至るのではないだろうか。ジュリヤンの刑死は、それだったのかも知れない。

この本の副題には「一八三〇年年代記」とあるからには、年代のことも読みとらなければいけないのかも知れない。しかし、今回の読書では、ジュリヤンの行動にばかり関心が向いてしまい、当時の社会や歴史の動きやら、貴族社会のありさまなどにはほとんど気が向いていなかった。したがって、上に書いたようなジュリアンたち若者がどう社会と関わりどんな歴史の中でどう動いたかなどは、ほんの断片的にしか記憶に残っていない。もし、幸いにも再度読む機会があったならば、そうしたことも頭に入れて考えながら読んで見たいものだ。

この本のこと

 新潮社発行の「世界文学全集」(1963/3発行、4刷)の小林正訳で読んだ。この全集は、新書版くらいの大きさの本で、黄色の箱入りである。叔父の家に、これが、本棚にずらりと並んだ様は壮観で見るごとにうらやましかったものである。おまけに赤い箱に入った「日本文学全集」もが並んでいたのである。そういうことがあったので、『赤と黒』を読むにあたって、この本を、それも古本屋で買ったのである。200と鉛筆で数字が入っている。横に定価が290円とある。箱から出すと、フランス装の感じの柔らかい表紙で、手に馴染みやすく、いかにも読んでくれといっているようである。表紙には、シンプルに本のタイトルと訳者名、出版社名が入っている。中を開けると二段組みでびっしりと印刷されていて、一刻も早く読むようにと促している。しかし、この本に限っては、最初だけ読まれた後、何らかの理由で、今回まで最後まで読まれることがなかった。きっと、その他のつまらぬことで時間がなくなったのであろう。その間、何年が経っていたことであろう。

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