老子の思想―タオ・新しい思惟への道  張鍾元(著) 上野浩道(訳)  講談社

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外国語の老子を読むと意外によく分かる, 2004/08/02

「老子道徳経」を西洋思想との調和の観点から読み解くことを試みた中国生まれの著者による英書からの翻訳。この本を読むと、老子が意外によく分かる、と思えるところがある。

老子の詩訳をした加島祥造さんが、寺田寅彦もそうだったと云うことだが、とエピソードを紹介しつつ、外国語の老子を読むと意外によく分かる、と書いておられる(「伊那谷の老子」など)。この本はそのような外国語の老子本のひとつであり、この「老子」を読むと、返り点による読み下しとは全く違った印象を受ける。

著者の張鐘元は、序章に「『道』の思想とヨーロッパ思想への影響」を置いて解説しているが、それに続く道徳経全81章に対応した章において、あたかも詩のような「老子」を冒頭に示している。これを、加島訳の老子と比べると、張訳のほうが簡潔である。つまりこの本は翻訳であり、同時に加島訳を詩訳とした理由である。加島の詩訳では、老子に従いつつ、詩的な肉付け、つまり加島がどう読んだかを詩として修飾している。

各章には、老子本文の訳文に続いて補注、注釈、注などが配されているが、もちろん中心は注釈。その特徴は、ハイデッカー、ユング、ヘーゲル等の論を引きながら西洋思想への影響を説くところである。西洋思想といいつつ、西田幾多郎がさかんに引かれるのは西田が西洋にどっぷりと浸かった思想家ととらえられているのかも知れない。しかし、それは、道=老子に何かを学び取ろうとしたユングやハイデッカーをさかんに引き、ヘーゲルの弁証法をも引いて論を展開することにみられるように、著者が、老子に西洋と東洋の融合への道を求めていることの現れと解釈できそうに思う。



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