梁塵秘抄 (シリーズ古典を読む)  岩波書店 (1986/02)  加藤周一(著)

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梁塵秘抄を明晰な論理で解き明かします,
2010/10/14

常のことながら、自然科学を専攻された加藤さんらしく、梁塵秘抄をも明晰な論理で解析し統合してくれます。

前口上と称した第1章では、梁塵秘抄が、貴族社会から武家社会の成立をうかがう時代の、多くは庶民の歌を、後白河法皇という人物が集成し、その一部が伝わったこととその意味を解明します。特に、なぜ読むかという節では、古典の意味を、加藤流に他の内外の古典を引いたりしながら示してくれます。

第2章では、後白河法皇を、政治家、人間としての側面から明らかにし、芸術家としての評価を行います。

そして、第3章にして、梁塵秘抄そのものの特徴を、仏教、日常性、性的表現、女心の歌という側面から照らして見せてくれます。最後の節では、いくつかの代表例につき中国語、英語の翻訳を鏡として日本語の特性などから、それら歌の特性を浮かび上がらせます。

かくして、歌謡の専門家とは一味違った方法により、この稀有な歌謡の世界のすばらしさへと私たちを誘ってくれます。梁塵秘抄とはいったい何なのか、その重要性はどこにあるのかなどに思いをめぐらせ、どんな節に載せて歌われたのかなどを想像しながら一気に読み終わりました。梁塵秘抄への入門書としておすすめです。



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