満州移民 改訂版―飯田下伊那からのメッセージ   飯田市歴史研究所著 現代史料出版 (2009/07)
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「被害者だった故に加害者となる」
, 2010/10/27

長野県は、全国で最も多くの満州移民を送り出した県でした。そのなかで、下伊那地域は最も多くの満州移民を送り出した地域でした。そのことからすると、このような本がまとめられるに最も相応しい地域が下伊那であり、それを実現したのがこの本であるといえます。

章立ては、
第1章 満州移民の前史
第2章 満州移民の送出と開拓地の生活
第3章 逃避行から引揚げへ
第4章 満州移民の戦後史
となっています。そして、各章に「下伊那からのメッセージ」というまとめが付けられています。

この本は、下伊那というローカルな研究所の研究者が、大学の専門家の協力を得ながら問題を掘り下げまとめ上げたものです。そのための情報源は、著者ら自らの調査・研究の他に、この地域における聞き書きの集積(「満州開拓を語りつぐ会編「下伊那のなかの満州 聞き書き報告集1〜6」飯田市歴史研究所、2003〜2008)など多くの地域資料です。まさに地域の総力からまとめあげられたといってよい本です。従来、満州移民に関する経験譚、ルポルタージュ、自伝の類は、膨大に出版されています。それらを総括したような本も少なからず出されてきました。しかし、地域の問題として深く掘り下げながら、全国的視野をもあわせ備えた考察として本書は、大変ユニークです。

いろいろ重要な記述が多いのですが、特に注目したい記述として、「満州移民に反対した人びと」という節があります。ふたりの村長さんも含まれます。それらは余り知られておりませんし、大変興味深い内容となっています。また、加害・被害の両面から「被害者だった故に加害者となる」という重層的な検討が必要という指摘は注目されて良いのではないでしょうか。さらには、現在にいたって「五族協和」を文字どおり実現する方向さえ見えてきているのではないか、という主張も重要だと考えられます。

満州に関心のある方に必読の書がまた増えました。


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