朱夏  宮尾登美子(著) 新潮文庫
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「満州」に向き合う迫真のリアリズム
  2006/7/18

満州における敗戦前後、530日余の凝集された出来事を本書にたどると多くのことが脳裏に去来する。満州での日本人の生活はどんなだったか 敗戦前後でどう変わったか?人間は、過酷な境遇にどう耐えたか、耐えられなかったか?人間は、植民者としての行動や極限状況の行動をどのように意義付けて平安に生き続けようとしたか?地位、職業、欲望とはそれぞれ何か?植民者としての民衆は、植民地でどう行動したか?中国人は終戦を挟んでどう行動したか?そして、結局、満州とは何だったのか?

答の一部は事実描写と主人公綾子の考えと取り巻く人々の言動で示され、いくつかは暗示でとどめられる。著者の経験に基づく、迫真のリアリズムである。

子の世代が親の世代より前進するには、親爺の背中やおふくろの味、親たちの成功と失敗など、親たちの世代と向き合ってそれを超えようとするのがもっとも確実な道ではなかろうか。現代の若者たちが、父母や祖父母の世代のことをしっかり理解し継承することは、これからの時代をより良いものにするためにとても大切なことだと思う。宮尾さんは、そのような理解を得る格好の事実を自らの経験の中から紡ぎ出して文学に結晶させくれた。

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