足跡 (プラムディヤ選集 3)  プラムディヤ・アナンタ・トゥール(著) 押川 典昭(訳)

                                            めこん(1999/01)


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20世紀冒頭のオランダ領東インドで民族独立をめざした人々, 2008/11/3

私達日本人にとって、インドネシア文学は、今まで、とても縁遠いものでした。しかし今や、ブル島4部作(「人間の大地」、「すべての民族の子」、「足跡」「ガラスの家」)ほかのプラムディヤ選集が出版されたことにより、その最高水準の作品を目にすることができるようになりました。

「足跡」で著者は、19世紀末から20世紀初頭にかけての10数年間のオランダ領東インドにおける民族独立運動の曙光を、プリブミ(原住民)貴族出身の主人公ミンケを中心にいろいろな人種からなる登場人物を通じて物語ります。運動は、古今東西にわたってそうであるように、順調には進まず紆余曲折をたどります。ここでは、どの人種を、どの階層を中心に、どのような組織にまとめあげるかがカギになります。そのとき、まず無知を克服する意味で自分たち自らの新聞の役割が大きいことが描かれます。インテリが運動の中心になりますが、徐々に女性、商業従事者、農民の参加も進んできます。この本では、そのような下での紆余曲折の具体的ありさま、日常の姿が生き生きと描かれるわけです。

私達日本の読者は、この本を通じて、アジア諸国民衆の20世紀初頭の植民地下における在りようや苦闘の一端を見ることになります。それらを今まであまりにも知らなすぎた故に、登場人物の一挙手一投足までがとても新鮮に感じられ、まったく新しい経験をつぎつぎにしてゆくことになります。中国人の進出はこの地域でも目を見張るものがありますし、日本の日露戦争勝利も、アジアの他の国の人々がどのように見ていたかをも少しですが垣間見ることができます。インドネシアの人々や歴史を理解する上でもとても勉強になる本です。

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