それから   

夏目漱石(著)  現代日本文学館5  文藝春秋  1967年

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三角関係と利己主義と , 2018/7/22

あらすじ
 
長井家は事業で財を成し、次男の代助は父親の援助で悠々自適の生活を送り、書生の門野、下女をおいている。父親からは財閥佐川の令嬢を嫁にと勧められている。政略結婚で事業の安泰を図るためである。代助の親友平岡は大学卒業後、銀行に就職し関西の支店に勤務している。他方、菅沼の母親が北海道で彼の大学卒業直前に亡くなり、後に父親と妹の三千代だけ残された。代助は、三千代を愛しながらも、三千代の前途を心配し平岡と娶せ住宅も斡旋した。三千代は生まれた子の死を契機に健康を害した。平岡は、部下による公金の使い込みが支店長に及ぶのを避けるため辞職することとなる。三千代の身を案ずる代助は平岡の不在時に家を訪ねては三千代を慰めた。三千代は代助に500円の借金を頼む。代助は、それにすぐに応えられないおのれの不自由を思い知らされる。嫂の梅子に頭を下げ200円を用立てる。梅子を通し縁談を断るとともに代助は「好いた女性がいる」と告白する。三千代を自宅に招き「ぼくにはあなたが必要だ。それを承知してもらいたい」と愛を伝える。美千代は、結婚する前にそれを聞きたかった、という。代助は平岡にも気持ちを伝える手紙を送る。その返事をまつうちに、三千代が倒れたと知らされる。訪ねてきた平岡に代助は三千代を譲ってくれと伝える。平岡も三千代を譲ることを了承するが回復してからにしてくれという。そして、二人は互いに絶交する。代助は勘当される。代助は恵まれた生活を捨て三千代を選んだ。代助は職業をさがして来ると町へ飛び出してゆく。

レビュー
 
恋愛自体が葛藤を伴うとはいえ、それは三角関係において極まる。したがって、古来、三角関係は恋愛を扱う芝居、小説の定石となってきた。「それから」において漱石は、近代日本に舞台をおいて、その姿を緻密に描いて見せた。特に、男の利己主義を前面においてそれを描ききった。そこには、近世から近代に至った結果の違いが描かれていた。だから、道徳的な是非とか、三角関係の矛盾の止揚とかを描かなかった。それは、現代の課題であった。

漱石は、「坊っちゃん」あたりか、「三四郎」あたりから恋愛の課題をその小説に取り上げはじめた。その後、いわゆる「前期三部作」の「三四郎」「それから」「門」とつながり、「後期三部作」の「彼岸過ぎまで」「行人」「こころ」とその課題が追求され続け、未完の「明暗」にまで続くらしいのである。そうした流れを踏まえて、この課題は考察されるべきのごとくである。

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