人類が知っていることすべての短い歴史    

       ビル ブライソン (著)    楡井 浩一(訳)  日本放送出版協会 (2006/03)

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民主主義の基礎としての科学の知     2011/1/22

おもしろい本でした。自然科学が解明したことを、私たちに分かりやすくおもしろく伝えてもらうことは、とてもありがたいことです。科学の知こそが、民主主義の基礎であるという説もあるくらいです。この本は、そういう意味でもとても成功しているのではないでしょうか。

まず、科学の成果を、しばしば物語風に分かりやすくおもしろく伝えてくれます。たとえば、プレートテクトニクスが認められるようになるまでの経過が、そして、アインシュタインの研究を跡づけ素粒子が明らかになる過程をいろいろな科学者のエピソードを交えて物語ります。DNAの構造が明らかになる物語を、ワトソンとクリックの本とは違う視点から描いてくれます。その他、科学が明らかにしてきたほとんど全ての分野、主要な分野について流れるように物語ってくれるのです。

ユーモアも随所にちりばめられます。偉大な科学者には奇人変人が多いということが語られます。偉大な発見・知見が長い間日の眼を見ずに眠っていた例が多いということ、たとえば、いろいろな恐竜の骨にそうした例がみられますし、アヴォガドロの法則は50年間も眠っていました。偉大な発見が発表されたときにはしばしば当該学界の権威者から白い目で見られたことをも私たちは知ることができます。

科学の進歩を通して、世の中の多くのことが随分明らかになってきましたが、分かっていないことはもっと多いのだ、ということも印象に強く残りました。例えば、遺伝子の解明がすすみ、いろいろな生物のDNAの解読は進んだけれど、人類の起源や進化の道筋には不明なところが多く残っているし、生命の起源はいまだに明らかになっていません。プレートテクトニクスなど、地下のことが分かってきているものの地震の予知などまったく不十分なままです、等々。

科学が進みその結果が情報として大量に流れている現代において、この本で行われているように「すべて」を知ること、より正確には「すべて」を眺めてそこから本質をつかむ能力を多くの人が培うことは、多分、とても大切になっているのではないか、ということもこの本を読んで考えさせられたことでした。

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