詩歌集 故郷の道 たちやまさお(著) STEP (2008/12)

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郷愁の中に生きる力を呼びおこす, 2012/2/15

なつかしい詩が並びます。著者は、福島県相馬市の出身とのこと。ですから、相馬で暮らした幼き頃の風景や風物をしばしば登場させています。クロアゲハやつなぎとんぼ、キンモクセイやタンポポ、コガラやカラス、散歩や盆踊り、・・・・。身近なそれらを郷愁にまかせて描きます。郷愁の詩人と呼ばれる先達がいらっしゃいますが、たちやさんも、その系列に属します。

たとえば、「真冬のお月さま」では、焼きいも屋のおじさん、とうさん、かあさんのやさしさをお月さまが見ているのをうたうのですが、それはアンデルセンの「絵のない絵本」に並びます。

この詩集は、2008年に発行されていますから、あの震災、津波、原発事故は、勿論、まだ先の話です。でも、今読むと、そうした風物、生きものも、それらに会ってどうなっただろう、と思われます。しみじみ思われます。後半に並ぶ詩には、単なる思い出や郷愁ではなく、生きることを励ます詩が多いことは、いっそう、今読む意義を感じさせます。

たとえば、「梅の花」という詩は、長く咲く梅の花を見ると、故郷の家や優しかった友を思い出すだけでなく、寒くても咲く梅の花のように強く生きようと思う心をうたいます。

また、「いぬふぐり」では、小さく可憐な花から、強い心で、人を愛し、自分を信じて生きようと勇気づけられるのです。

詩歌集というと、詩だけでなく短歌なども含むことがありますが、この本がそう謳ったのは、この本に並ぶ多くの詩が、歌ってみたくなる童謡、または童謡風だからではないでしょうか。作者は、それらを歌うことを想いつつ詩作されたのではないかと想像します。実際、山本ユリさんはじめ、何人かの方が、いくつかに曲をつけ、コンサートを開き、ユーチューブでも紹介しておられます。「たちやまさお」で検索してみて下さい。

現代の詩壇で、こうした詩がもてはやされるかどうか、私にはわかりませんが、故郷というものが、いろいろな理由で「遠い」ものになりつつあることを思えば、こうした詩によって、故郷を想い、近くに再び引き戻すことを多くの人が考えてくれればうれしいな、大切なことだなと思います。
 

                                                          (2012/02/13)

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