自叙伝の試み 和辻哲郎全集第18巻 岩波書店 (1978/4)  和辻哲郎(著)

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医家に生れながら文科を志し一高生活まで, 2007/12/21

思想家で哲学者の和辻哲郎の幼/青年記であり、一高生活まで。本書は、著者がいついつ生まれた、では始まらない。土地のことから始まる。生まれた土地、暮らした土地、行った土地とそれらにまつわること、人、つまり家族、友人、師などが描かれる。和辻哲郎という人は、とりわけ地理感覚というか、方位に関する座標がしっかりしているらしい。係わった土地のことを東西南北で示し、その優れた地理感覚で説明する。田舎者(和辻は、自分が、姫路の在出の田舎者という)と都会(東京)人との比較もその感覚の一環であろうが、本書はそのことから始まる。

本書の大きな流れは歳を追っているのだけれど、それは「時空を飛ぶ」スタイルに貫かれている。『風土』や『古寺巡礼』もそれである。話は時空を飛び、あちこちへ飛びいろいろな時代に飛び、いろいろな人をおとなう。自分のことを書くのだが、流れを考え選んで書いている。だから、時空を飛びつつも発散しないで必ず元の流れに帰ってくる。自分を書いても、あまり自分をひけらかさない。九鬼周造を持ち上げるが、我々は、和辻も劣らずすごいことを知っている。

本書を書くにあたって、和辻は、当然調査確認をしていると想像できるが、記憶力もすごい。本は積極的に求める。旺盛な知識欲は、一高に入って、上野図書館に行ったときの驚きと喜びなど随所にうかがえるが、その時点では、後に見られる該博の域には未だ踏み入っていないようである。とすると、例えば『古寺巡礼』(初版は30歳の時の出版)に見られる該博さは、この後、10年足らずの間に身につけたものとみえる。

何といっても本書の豊穣さ、ゆったりとした豊かな流れは、全集で450余頁、中央公論連載が1956年1月から病気中断の1960年1月までの3年余にわたる執筆である。時代の流れとも相俟って実に味わい深いものがある。


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