詩のささげもの 新潮社 (2002/05)  宗 左近著(著)

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ワーズワスの自然観をたどる,
2009/4/13

イングランド湖水地方は、一度は訪れてみたい地方のひとつですが、まだ機会を得ていません。ベアトリクス・ポターの「ピーターラビット」でも有名ですが、そのずーっと以前、19世紀前半に詩作を通してこの地方を有名にしたのが、ウィリアム・ワーズワスでした。彼は、日本でも自然派詩人として有名です。彼の自然観とその成り立ちを知りたいと、この本を手にしました。

彼は、湖水地方の北外れ、コッカマスで1770年に生まれました。学齢期を湖水地方の中央部、ホークスヘッドの街で過ごし、ケンブリッジに学んだ後、10年ほどを各地の放浪に費やしましたが、1799年に再び湖水地方のグラスミアにもどって居を構え、1850年に80歳で亡くなるまで、生涯の大半を湖水地方で過ごしました。

本書では、おおむねワーズワースの生涯を追って、彼の詩の代表作を対訳で示しつつ、そこに見られる自然観を具体的に分析して見せてくれます。子どもの頃に湖水地方の自然の中で過ごしたことから形成された「記憶の中の自然」、放浪期の「自然のうちの完全な平和」、「自我と自然の合一」、故郷へ戻ってからのそれらの洗練と、故郷への愛と厳しい現実を見つめる眼の完成、といった自然観の変遷が明らかにされます。

著者は、上述の通り、彼の詩に則って、彼の自然観とその詩作への表れを明らかにしてくれていて、それはそれでよいのですが、本書であまり触れていない論点として、キリスト教との係わり、社会経済状況の反映(フランス革命については、若干の言及があります。しかし、彼の生涯は、イギリス産業革命の真っ最中のことでしたから、そのあたりも本当は知りたいところです)なども、考えられるべきと思われます。しかし、それらは、別の本に求めることにしましょう。



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