夜あけ朝あけ   住井すゑ(著) 新潮社(新潮文庫)  (1965/01)

                                                
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「私は、美しいもの、真実なものの前に泣きます」, 2012/2/2

私が初めてこの本を読んだ年齢を正確には覚えていませんが、少年の日のいつかだったことは確かです。当時は、いわゆる児童文学の一つとして読み、すなおに感動したことを覚えています。筋書きも、おかあさんが破傷風で亡くなるところ、らっきょうはヒネたものほど高く売れるというところなど、主なところは覚えています。ところが、年老いてきて読み直した今、この本が、もっと奥深く大きなテーマを蔵していたことに改めて驚いています。

近年、「土の文化」の復権とでもいえる動きがあちらこちらに見える気がします。古くから、東西世界で風・火・水・土こそ万物の元といわれてきました。それらの中で、土は、ともすると汚いものとされ、それに依存して成り立つ農業もダサイものなどとされる傾向がありました。毎日、土と共にある農民も、現代の社会では、どんどん減ってきたのです。

しかし、今、土、農民、そして農業が、生命を育むものとして静かに見直されつつあります。そうした土の尊さ、力強さ、そして恐ろしさなどが、本書からジワジワと見えてきて、それと向き合って生きる農民、それと向き合う農業という労働、さらには労働そのものを見直させられるのです。この本を読むと、それらが、真実の力を備えており、美しい姿を体現していることに気付かされます。

作者住井すゑさんは、本書のあとがきで、フランソア・ミレーの絵『アンゼラス』『落ち穂拾い』を引いて「私は、美しいもの、真実なものの前に泣きます」と書いています。本書で住井さんは、それら「美しいもの、真実なもの」を見事に描ききったと思います。子どもたちから大人まで、この本により、それらを追体験してほしいと思います。


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