戻らない郵便配達夫
     

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ィユービ〜ン
と、玄関に投げ込まれた郵便、
メンコの帳尻合わせを放り出して
上がりがまちに走って拾い上げた郵便・・・

しかし、その郵便屋さんの背中を、
傾いた午後の陽に見送ってから三日も
あの声は聞えない
そして、やっぱり、今日も聞えなかった

ィユービ〜ン
来たッ
群馬県桐生市新宿町から
右上がりの字の封書が届いた

郵便が来るのが、ただ楽しくて
雑誌の文通希望欄からはじめた手紙書き。
「兼六園は近所なのですか」
その写真は、僕の次の奴の記事のもの

この子もやっぱり返事が届くのを
待ってるだろうか
「ミカン山ではミカンが少し黄色になりました」
なんて、たいしたことも書いてない手紙を

役場まで自転車を走らせて
赤いポストに投函し
帰ってきて、もう
次を待っている

ィユービ〜ン
という声が絶えて聞こえなくなり
郵便配達夫が夢を運ぶことをやめてしまったのは
何時のことだっただろう

郵便が届けてくれた
何か良いこと、夢、期待は、
郵便受けからゴミ箱への
ダイレクト・メールの山に埋もれ

ィユービ〜ン・・・
という声を玄関に投げ込む
郵便配達夫は
もう戻って来ない

                          (2006.8.9)

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