夕凪の街桜の国  

こうの 史代 (著)  双葉社 (2004/10)

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非日常を日常の感性でとらえさせてくれる芸術作品  2007/8/5                                    

広島に原爆が落とされて10年、昭和30年、ひとりの若い女性が、寄せられる愛をも断って息を引き取ります。そして、次の世代、時は昭和62年、更に次の世代の平成16年と、みっつの時を越えて、ヒロシマはつながって行きます。原爆、戦争、差別などを、肩肘張らず庶民の目線で問いかけてくる漫画作品です。

気軽に読めるのですが、登場人物の関係がやや複雑です。でも、この本の特徴は、読後に大きな何かが胸に宿る、そんな本なのです。それが何故なのかを考えてみました:

広島、原爆、戦争とは何なのか、というとても堅い単語からなる質問に、そのまま堅くではなく、とても柔らかに、私たちの日常生活と同じ感覚で答えてくれるのです。ですから、その答は、普通の人である私の胸にす〜っと染みわたるのです。漫画ですから、その絵自体がかもしだす情緒、ほとんど思想といってもよい感性がコマを追うごとに胸のなかに拡がるのです。

読んで得た印象を、感情が収まってから改めて反芻すると、私は私なりに、あなたはあなたなりにそれぞれの思いが台詞や場面を伴って頭に浮かびます。それらは、実は単なる日常ではなく、原爆だったり差別だったり運命だったりという非日常なので、それらは、きっとあなたの今からの人生航路に大小のインパクトを与えるに違いありません。漫画ではありますが、立派な芸術作品です。

熱い夏の日、緑陰の読書に、是非多くの方々におすすめしたい本です。


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