町内のウグイス

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私たちの団地のすぐそばまで里山が迫ってきている。農家も手入れはまれにしかしないので、篠笹の山になっている。そこに、毎年、ウグイスが居着いて良い声を聞かせてくれる。今年も2月のいつごろからか、ホーホケキョと鳴き始め、春が深まるにつれサエヅリの腕も日に日に上がり、初夏の今では、名人芸に達している。人里に近いせいか、警戒するときにする谷渡りもしばしばしており、ケキョケキョケキョケキョとよくやっている。このあたりでは、まだしばらく彼らの声を聞くことができる。

私たちの団地は、道路が貫通していなくて「の」の字のようにループしている。だから、車の通り抜けがなく、静穏を保つことができている。「の」の字なので入ってくる主要道路が一本しかなく、その道路沿いには団地が続く。そしてそれら団地に囲まれるように「の」の字の懐に雑木林の里山が坐っている。山と言っても、台地の先端部というだけで、斜面を降りたその先には小さな川がささやかな水田を従えて流れている。つまり、雑木山は三方の団地とわずかな水田とに囲まれ孤立しているのである。


   左:高速道、右:バイパス

その雑木山が、どのくらいの広さがあるか、見当を付けてみた。強引に長方形をあてはめてみると、500m×300mくらいで、15ha(ヘクタール)、0.15平方キロ程度。厳密に言えばその中に畑なども紛れ込んでいるので、それを差し引くとだいたいこの位である。

ウグイスは、縄張りを確保し住み着くためには最低1haのまとまった藪が必要だと聞いたことがある。それには十分の広さである。幾組かのつがいがいるのかも知れない。この雑木山には、ウグイスの他、メジロ、ホトトギス、コジュケイなども住み着いている。フクロウの声は聞いた記憶がない。ついでに記せば、「鎌倉往還」もこの雑木山を抜けている。

これらの鳥たちが、われわれの町内にどれほどの潤いをもたらしてくれているか、計り知れないものがる。町内会の人々は、だから、道路を貫通させることにはおおかた反対だし、この雑木山を開発することには多分同意しがたいだろうと思う。ただ、心配なのは、大型ショッピングセンターがこの雑木山に進出するような計画が出されないか、ということである。ウグイスとショッピングセンターのどちらをとるか、は、この町内の未来にとって大きな分水嶺となりうる。

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